誕生日

昨日は自分の誕生日だった。
とはいえもう37歳にもなるので誕生日でテンションが上がるとか下がるとか、そんな特別な変化はないのだけれど、週末の移動の疲れもあってグッタリとしていた。ライブ自体は楽しかった。誰かに会うことは好きだし喜びでもある。でも普段の生活よりも遥かに大きな力を必要とする。少なからず気を揉む事にもなるから、その反動が一人になった時に押し寄せてくる。これはみんなそうだと思う。
そんな時、多くの人はお酒を飲んだりするのかもしれない。自分も全く飲まない訳ではないけど、本当に疲れている時に飲むのはあまり好きじゃなくて。アルコールで気分を高揚させるのも、逆に悲しみに暮れるのも出来れば避けたい。ただじっとそのままでいて、本を読んだり、自分の愉しみだけの為に楽器を弾くなどして、波が去っていくのをゆっくり待ちたい。昨日もそんな気分だった。そしてピアノを弾こうと思った。

ツアー中に浮かんだメロディーがあった。自分としては珍しく最初から最後まで一気に浮かんでいて、さらにピアノの音も聞こえていた。だからそれのコードを拾いつつ、まとめてみようと思った。こういう時間はただただ心地よい。ピアノは本当に「まったく弾けない」と言っても過言ではないレベルの腕なんだけど、不器用だからこその楽しさがある。どんな美しい曲を聴くよりも自分の為だけに楽器を鳴らすことの方が心を癒すんじゃないだろうか、と真剣に思ったりもする。実際はどうだろう？

そんな風に過ごして１〜２時間もすると弾くべき鍵盤の場所もわかってきたのでiphoneのボイスメモに残すことにした。人様に聴かせられるようなクオリティーでは決してないが、記録としては充分だ。積極的に聴き直したいとは思わないけど。

ひと段落したところで、最近ライブで歌い出した曲の題名を考え始めた。
題名が決まっていないこと、そして「しみったれた男と言われても」という歌詞で始まるそのキャッチーさが故かサポートメンバーたちはその曲を表現するに「あの”しみったれた”曲」と呼ぶ。随分と聞こえの悪い呼称になってしまっている。できれば早急に正式な題名を提示したい。

そんな思考の先に中原中也の詩が浮かんだ。「汚れっちまった悲しみに」
私は普段から文学に熱心なタイプでは決してない。22歳ぐらいまでは偏った趣向ながらも随分沢山の本を読んでいたけど、就職した後は料理の本しか読めないでいたし、その後のミュージシャンへの転換期は音楽関係の本ばかり読んでいた。だから何も詳しくない。
「汚れっちまった悲しみに」は中学で習った記憶が残っていた。「なかはらちゅうや」という”中”が二回も出てくる奇妙な作者名、そして叶姉妹が言うところの「グッドルッキングガイ」、つまりそのルックスの良さで少し興味が湧いて、記憶していた、それだけの事で。ふいに興味が湧いたので検索してみることにした。（こんな時、パソコンって本当に便利だなと思う）

Googleでの検索候補の何番目かに出てきたYahoo知恵袋の回答があまりにも素晴らしく、かつ私個人がずっと疑問に感じていた事に対して明確な答えを提示してくれていたので記事に残しておきたい。

 

質問

『汚れちまった悲しみ』というのは、どういう意味なのかな。中原中也さんの詩から質問しました。

回答

 

文学的な解釈はわからない。
そもそも正解はあるのか？とはいえどれもこれも正解なんだと思う。

 

人間を前に突き動かすのは、全て美しい思い出です。
その思い出を美しくさせているのは、実は悲しみなんですね。
悲しみを伴う思い出が、美しい思い出になるんです。
だから楽しい思い出というのは、あんまり力にならない。

 

自分に響いたのはこの一節。この気持ちを表す言葉が見つからなくてずっと探していたと思う。
嬉しいも悲しいも思いの強さ、深さによってだいぶ変わる。経験はひとそれぞれ違うものだけど、何を経験したよりもそれをどう感じたかが後々に影響してくる。
悲しみを悲しみのまま、真正面から受け止めるには時間も掛かるし、勇気もいる。でもその踏み込みが人生をより豊かなものにしてくれるのだと自分は信じている。

 

 

今年も与えられた命に感謝して、自分が生まれてきた意味を考えながら使命のようなものを全うしたい。
昨日は特にそう思った。
健康で誕生日を迎えれたことに感謝したい。